金沢発酵コラム
すしではないのになぜすしという名前?
vol.03 - 2025.6.7
四十万谷 正和(四十萬谷本舗 専務)
すしではないのになぜすしという名前がつくの?
かぶら寿し、大根寿しはおすしなの?
『かぶら寿しは一般的に知られるおすしとは全然違うものなのに、なぜ「すし」と呼ぶのでしょうか?』とご質問をいただくことがあります。実はすしと聞いて思い浮かべる方の多い「握りずし」が生まれたのは江戸時代になってからのこと。おすしの起源は東南アジアの山あいの地域にあり、「なれずし」という、魚をごはんで漬け込み、乳酸発酵させて酸っぱくして保存性を高めたものだと考えられています。
すしの語源は「酸し=酸っぱいもの」であるという説も有力なんです。現代ではすしは「握るもの」ですが、もともと寿しは「漬けるもの」だったんですね。それが時代と共に形を変え、糀を加えた「いずし」となり、かぶら寿しや大根寿しもそれらの一種として、受け継がれてきたのです。(ちなみに現在の握りずし=江戸前ずしが登場するのは文字通り江戸時代になってから。忙しい江戸の職人さん達がさくっと食べられるファーストフード的な位置付けだったとか。ちなみに当時の握りすしは1貫あたりのご飯の量がおにぎりほどの大きさだったようです。)
保存性を捨てて、美味しさを追求する「贅沢な発酵?」
さて、「いずし」のように糀を使用すると発酵のスピードが早まり、保存性はやや低くなりますが、その分甘みや旨みが加わり、よりリッチな味わいが楽しめます。かぶら寿しの場合は、漬け床に糀甘酒のような甘味やコクが加わると言えば、イメージがつきやすいかもしれません。つまり、かぶら寿しや大根寿しの発酵は「保存のための発酵」ではなく、「おいしさを追求した発酵」であるといえます。「贅沢な発酵」「食いしん坊の発酵」とも言えるかもしれません。「ハレの日に皆で集まり、美味しいものを共に味わいたい」「お世話になった方に、美味しいものを贈りたい」かぶら寿しには、そんな先人たちの想いも込められています。かぶら寿し、大根寿しをお召し上がりの際にはおすしの歴史とその変遷の想いを馳せていただくのも楽しいかもしれません。
※すしの歴史について詳しく知りたい方は、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんの番組「ラジオ ただいま発酵中」のおすしの回(第225回〜)をぜひお聞きください。(ページ下部にリンクがございます。)
※当社HPでは「かぶら寿しの歴史」についてもご紹介しております。ぜひご覧ください。(ページ下部にリンクがございます。)
四十万谷 正和 / Masakazu Shijimaya(四十萬谷本舗 専務)
株式会社四十萬谷本舗 専務取締役 / 中小企業診断士
大学卒業後、ハウス食品グループ本社(株)にて人事部門に従事。採用、労務、人事企画、グローバル人事等を経験。
2017年4月に後継者として家業である四十萬谷本舗に入社。2019年4月より現職。
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